フィボナッチ数列とは、イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチに因んで名付けられた数列で、連続した2つの数字の和がその次の数字になるという規則性があります。
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, …
フィボナッチの名前が付いていますが、最初に発見したのはレオナルド・フィボナッチではなく、ヘーマチャンドラと言うインドの学者です。
インド古典詩の韻律に関する研究の中でこの数列を発見したのが始まりなのですが、不思議なことに自然界に多く見られることが知られています。例えば、多くの花の花びらの枚数は3、5、8、13、21枚になっていますし、バナナの断面は3つの部屋、リンゴは5つの部屋に分かれています。
また、フィボナッチ数列には「隣り合う数の比率が黄金比にに限りなく近づいていく」という性質があります。 黄金比とは 1:(1+√5)/2 のことで、人間が最も美しいと感じる比率であるとされています。
√5が無理数であることから、一般的には近似値の1:1.618 が良く使用されます。
黄金比は身の回りのデザインや建築物、芸術作品にも多く取り入れられています。例えば、パリのエトワール凱旋門の中央開口部と全体の高さの比率や、一般的な名刺のサイズやタバコの箱の比率も黄金比に近い比率になっているのです。
このように、自然界にも多く見られるフィボナッチ数列と様々なデザインに採用されてきた黄金比はどのように関係しているのでしょうか。
そこで今回はフィボナッチ数列と黄金比の不思議について解説します。
フィボナッチ数列の数学的性質
漸化式
nを自然数とした場合、フィボナッチ数列は次のような隣接3項間の漸化式で表せます。
第1項と第2項が1で、それ以降は「前々項と前項を足したもの」で定まる数列であることを表していますね。
フィボナッチ数列の一般項
上記の漸化式の特性方程式は x2= x + 1 であり、その解は
となります。
この解を用いてフィボナッチ数列の一般項を次のように求めることができます。
解は全て自然数になりますが、式の中に無理数である√5が現れるのが不思議に感じますよね。
この式はビネの公式とも呼ばれます。
黄金比に収束
黄金比とは、正確には下記の比率のことを言います。
黄金比における
を黄金数と呼びますが、見ての通り、一般項を求める時に使用した特性方程式の解に等しいですね。
黄金数は通常 Φ (ファイ)で表されます。Φ は1.6180339887・・・と小数点以下が無限に続く無限小数であるため、近似値の1.618を黄金数とすることが一般的です。
さて、ここで
とおき、フィボナッチ数列の隣り合う2項の比がどうなるかを見てみましょう。
隣り合う2項の比を求める式は、ビネの公式より
となります。
であることから、n → ∞ となった極限を考えると、βnは限りなく 0 に近づくことがわかります。
よって、
となり、フィボナッチ数列の隣り合う2項の比は黄金比に収束することがわかりますね。
次に示す図は、一辺の長さがフィボナッチ数列の各項になっている正方形を順に並べたものです。
この図に現れる長方形の比率を、小さい方から順に見てみると、
2 / 1 = 2
3 / 2 = 1.5
5 / 3 = 1.666・・・
8 / 5 = 1.6
13 / 8 = 1.625・・・
21 / 13 = 1.615・・・
34 / 21 = 1.619・・・
55 / 34 = 1.6176・・・
89 / 55 = 1.61818・・・
となり、段々と黄金比に近づくことが見て取れます。
また、フィボナッチ数列の各項を半径とした円の曲線を繋げると上の図のような螺旋が現れますが、この螺旋をゴールデンスパイラル(黄金螺旋)と呼びます。
隣接する二項は互いに素である
フィボナッチ数列にはもう一つ面白い数学的性質があります。
それは、隣接する二項は互いに素であるという性質です。
互いに素とは、「共通の約数が1しかない(最大公約数が1である)」ことを意味しますが、無限降下法を使ってこれを証明してみましょう。
まず、anと an-1が素数の公約数 p を持つと仮定すると、
とおけるので、これを漸化式に当てはめると、
となり、an-1 と an-2 も公約数 p を持つことになります。
これを繰り返していくと、a2 と a1も公約数 p を持つこになり、
に矛盾します。
よって、フィボナッチ数列の隣接する二項は互いに素であると言えます。
自然界に見られるフィボナッチ数列
冒頭でも軽く触れましたが、自然界でもフィボナッチ数列が多く見られます。
その中でもよく知られているのが「ヒマワリの種」で、花の中心から外に向かって螺旋状に並んで配置される種のパターンは、どのヒマワリを見ても
時計回りで21列、反時計回りで34列
時計回りで34列、反時計回りで55列
時計回りで55列、反時計回りで89列
となっており、これ以外のパターンは存在しません。
また、一般的に樹木の枝分かれはフィボナッチ数列になっているそうです。
このコラムを書き始めたのが2月の後半、ちょうど枝が露出している季節だったので、スタッフbも近所の雑木林で観察してみましたが、おそらく人の手によって剪定されたであろう樹木を除けば、概ねこの通りになっていました。
これと同じような枝分かれが人間の気管支にも見られるそうなので驚きですよね。
自然界にはその他にも、下記のようにあらゆる場所にフィボナッチ数列を見ることができます。
パイナップルの表皮の螺旋の数:
パイナップルを覆う皮の表面の螺旋の数は、5本、8本、13本、21本となっている
花びらの数:
ユリの花びらが3枚、ききょうの花びらが5枚、コスモスの花びらは8枚、マーガレットは21枚
桜など正五角形の花びらの対角線:
正五角形に対角線を引いた1辺と対角線の長さの比
普段から目にしている自然界にも数多くのフィボナッチ数列が当てはまっていると考えるだけでも、大昔から人間と自然の相関関係が見出せるような気がしますね。
フィボナッチ数列とデザインの関係
これまで、自然界におけるフィボナッチ数列をご紹介してきましたが、多くの方がフィボナッチ数列や黄金比を感じ取れる機会としては、やはり芸術・美術作品や歴史的建造物などが多いのではないでしょうか?
また、日常的によく目にする広告デザインや企業ロゴの中にも、黄金比やフィボナッチ数列が多く存在します
ここではそんなフィボナッチ数列で構成されたデザインや黄金比を取り入れた構図の例をいくつかご紹介していきます。
フィボナッチ数列で構成されたロゴデザイン例
このように、曲線で構成されるロゴにフィボナッチ数列を取り入れると、比較的バランスが取れたデザインが完成する傾向があります。
黄金比が使われている有名ロゴ
- Apple
- TOYOTA
- 旧Twitter
- ペプシコーラ など
黄金比が使われているアート作品
富嶽三十六景 神奈川沖浪
波の形状がゴールデンスパイラルに沿った形になっています。
ミロのヴィーナス
爪先〜へそ:全長 = 黄金比
へそ〜肩:へそ〜頭頂 = 黄金比
黄金比が取り入れられている建造物
パルテノン神殿
黄金比を発見したのは古代ギリシャの数学者エウドクソスで、その黄金比を古代ギリシアの彫刻家、ペイディアスが初めてパルテノン神殿の設計に取り入れたと言われています。
エトワール凱旋門
下から撮影した写真のため分かりにくいですが、中央開口部の高さと全体の高さの比が黄金比になるように設計されているそうです。
いかがでしたでしょうか?
このように、黄金比には数学的な美しさがあり、自然界やアートの中にも多く見られる神秘的な比率だと言えると思います。
しかし、黄金比だけが美しさの基準だと考えるのは早計です。
日本で古くから親しまれている白銀比 1 : 1.414 (大和比)や、 1 : 2.414 (第2貴金属比)、青銅比 1 : 3.303 などもありますし、特定の比率でなくても美しく感じるバランスはいっぱいあります。
黄金比に隠された法則を理解し、黄金比を「デザインを美しく見せるための手法の一つ」として頭に入れておけば、レイアウトや構図に迷った時に役にたつことがきっとあるでしょう。