人が美しいと感じる比率にはいくつかありますが、最もよく知られているのは黄金比でしょう。黄金比とは 1:1.618 のことを言い、特に西洋の建築や美術の中で頻繁に用いられてきました。
一方日本では、古くから白銀比(大和比)が美しい比率として用いられてきました。白銀比とは 1:1.414 のことを言い、大工の間では「神の比率」とも呼ばれていました。
今回は、そんな日本人が長い間なれ親しんできた白銀比について、詳しく見ていきます。
白銀比とは?黄金比との比較
黄金比は下記の比率のことを言います。
一般的には5の正の平方根の近似値2.236を使って計算した1:1.618が使用されます。
対して、白銀比は次の比率になります。
1:1.41421356・・・
はて? この数値どこかで見た記憶が・・・
一夜一夜に人見ごろ⁈
そう、この数値(1.41421356)は中学数学で習う「2の正の平方根の近似値」なのです。つまり、白銀比とは正確には 1:√2 のことなので、正方形における各辺と対角線の比に等しい比と言うことになります。
黄金比と白銀比を比較してみると
黄金比に対して白銀比はずんぐりとした印象がありますね。
ちなみに白銀比には2種類あり、もう一つは 1:1+√2 (第2貴金属比)になりますが、今回は別名「大和比」と呼ばれる 1:√2 を中心に解説します。
近代の建築物に目を向けてみても、日本国内で最も高い建造物「東京スカイツリー」は、全高634mに対して、天望回廊「フロア445」と呼ばれる第二展望台までの高さが448mで、まさにその比率は 1:√2 の白銀比になっています。
古代から現代にかけて日本と深い関係がある比率なのです。
白銀比が重宝されている歴史的背景
西洋の建造物や美術品の多くに黄金比が用いられているように、日本の歴史的な建物には白銀比が採用されているということは意外と知られていません。
それでは早速、白銀比が取り入れられている例をいくつか挙げてみましょう。
歴史的建造物
- 日本最古の木造建築「法隆寺の五重塔や金堂」
- 銀閣寺で知られる「東山慈照寺」
- お伊勢さんで親しまれる「伊勢神宮」の各社
仏像や芸術作品
- 浮世絵画家・菱川師宣の代表作「見返り美人図」
- 阿修羅像でもっとも有名な「興福寺の阿修羅像」
- カエルとウサギの構図で有名な国宝「鳥獣戯画」
当然のことながら、どれも「和」を感じさせるものばかりです。
白銀比自体は、白銀がまだ一般的ではなかった時代から用いられており、日本人にとって安心感があり、美を感じさせる比率だったことがうかがえます。
キャラクター
神社仏閣や浮世絵のような古くからあるものばかりではなく、アニメキャラクターもまた日本独自の文化ですよね。
- ドラえもん
- アンパンマン
- トトロ
日本を代表する上記のキャラクター達は横幅と身長の比が 1:√2 に近い比率なっているのです。
日本のアニメキャラクターはこの大和比が採用されていることが多く、例えば、全国のゆるキャラなども縦横が大和比でデザインされたものが多いですし、「ゆるかわ」でお馴染みLINEスタンプのブラウンやコニーなどもその比率に該当します。
ちなみに、アメリカで人気のアニメ「アドベンチャー・タイム」の主人公フィンのイラストを見ても、どちらかと言えば黄金比寄りであり、日本的なゆるさや可愛らしさに乏しいのが特徴です。
主観になるかもしれませんが、欧米は細身でスタイリッシュとなる黄金比のデザインが好まれるのに対して、日本では可愛らしさや柔らかさを感じる大和比が好まれる傾向にあると言えるでしょう。
五・七・五
ところで、皆さんも学生の頃に習った俳句や短歌は「5・7・5」や「5・7・5・7・7」といった形式で構成されることはご存じかと思いますが、どうして構成される文字数が、5や7なのでしょうか?
実はここにも白銀比が登場します。
1.41421356・・・を小数点以下1桁に丸めると1.4。
1:1.4を整数の比で表すと5:7になります。
日本人にとって、大和比には視覚的な心地良さだけではなく、拍子としての心地良さもあったことをうかがい知ることができるのです。
こうして、改めて白銀比(大和比)を考えると、遥か昔の時代から日本の文化に根付いてきたことが分かりますね。
1:√2という比率や、5と7という数字が自然と体に入りやすいのは、こうした文化が背景にあったのですね!
大和比と第2貴金属比の関係
さて、ここまで大和比と日本の美との関係について深掘りしてきましたが、もう一つの白銀比である第2貴金属比と大和比の関係はどのようになっているのか、見てみましょう。
白銀長方形(大和比)ABDEから最大の正方形ABCFを取り除いた長方形CDEFの比を考えてみます。
CD=√2-1, DE=1 なので、
√2-1 : 1 = 1 : x とおきます。
内項の積は外項の積に等しいので
(√2-1)x = 1
両辺に √2+1 を掛けて
(√2+1)(√2-1)x = √2+1
x = √2+1
よって、
CD : DE = 1 : √2+1 となり、
長方形CDEFは白銀長方形(第2貴金属比)になっていることが分かりました。
さらに白銀長方形CDEFから最大の正方形を取り除くと
1 : √2+1-1 = 1 : √2
白銀長方形(大和比)が残ります。
以上をまとめると、大和比と第2貴金属比には次の2つの法則が成立します。
- 白銀長方形(大和比)から最大の正方形を取り除くと白銀長方形(第2貴金属比)が残る
- 白銀長方形(第2貴金属比)から最大の正方形を取り除くと白銀長方形(大和比)が残る
印刷用紙のサイズ
A0: 841mm×1189mm
B0: 1030mm×1,456mm
ノートやコピー用紙には主にA判とB判の2つのサイズ規格がありますが、実はどちらも1 : √2の白銀比になっています。
上の図を見ると分かりますが、このサイズ規格には半分に折ることを繰り返しても縦横比が維持されるという性質があります。
本当にそうなっているのでしょうか?
確かめてみましょう。
1 : √2 の長方形を半分に折った長方形の比は
となります。
とおき、内項の積は外項の積に等しいことから
両辺に √2を掛けると
x = √2
たしかに半分に折っても 1 : √2 の比率は維持されていますね!
1枚の大きな紙から複数のサイズを無駄なく生産することが可能な白銀比は、物を大切にする日本人特有の「もったいない」精神につながる比率とも言えます。
いかがでしたでしょうか?白銀比が日本人に愛される理由がなんとなくご理解いただけたのではないでしょうか。
正方形から生まれる白銀比には質素さと可愛らしさがあり、数学的にも極めてシンプルな美しさがあるのです。黄金比が動なら、白銀比は静と言った感じでしょうか。