画素数だけに着目すれば、今やスマホカメラの性能はフルサイズ一眼に追いついたと言えるかもしれません。しかし、カメラの性能は画素数だけでは推し量れないんです。
例えば、「白飛びや黒つぶれを抑えたい」とか、「背景をぼかしたポートレートを撮りたい」というようなニーズは、画素数が高ければ実現できるものではなく、カメラ性能のひとつであるダイナミックレンジやF値といった指標が重要な要素になるのです。
カメラに興味がある方なら常識的なレベルかもしれませんが、フルサイズ一眼に匹敵するほどの描写力を持ったスマホカメラが一般化しつつある現代においては、カメラにあまり興味がなくても知っておきたい知識のひとつなのです。
そこで今回は、スマホで写真を綺麗に撮影するための基礎知識として、「F値」と「ダイナミックレンジ」について解説します。
写真の品質やボケ具合を左右する「F値」について
F値とは
F値とは別名「絞り値(しぼりち)」とも呼び、簡単に言うと「カメラレンズの明るさを表す数値」です。 絞りを開くとF値は小さくなり、より多くの光を取り込む事ができるようになります。光を多く取り込む事ができるという事は暗所での撮影に強いということになりますね。
また、F値を小さくできればシャッター速度を速くする事が出来るため、F値の小さいレンズは手振れしにくいという利点もあります。
ほとんどのレンズの商品名にはF/2.8のような表記が含まれていますが、これは絞り解放時のF値を指します。ズームレンズにはF/3.5- 5.8のような表記があるものも多いですが、これは倍率を変更するとF値の下限も変わることを意味しています。
このように、F値の小さいレンズを選んだ方が綺麗な写真を撮る事が出来ると言うことになりますが、スマホのスペック表にはF値が記載されていない場合も多いので、気になる方は、「スマホ レンズ f値」のようなワードで検索してみてください。多くの記事がヒットするはずです。
例えば、最新のiPhoneシリーズについて調べると、背面のメインカメラのF値は下記のようになっています。
iPhone 11 Pro/Max
広角カメラ:F値1.8
超広角カメラ:F値2.4
iPhone 12 Pro/Max
広角カメラ:F値1.6
超広角カメラ:F値2.4
F/2.0前後程度のレンズを使用したスマホが多い中、iPhone12のF/1.6と言う数値はすごいですね!
この数値からも、iPhone12のカメラ性能が優れている事が分かります。
スマホで背景を綺麗にぼかしたポートレートを撮れるのか?
F値の小さいレンズは暗所撮影や手振れに強いと言うメリットがあるほか、「背景を綺麗にボカして被写体を浮き上がらせる」写真を撮りやすいと言う利点があります。よって、表現力の豊かな写真を撮影すると言う目的の方にも、F値が小さいスマホはおすすめとなります。
背景のボケ具合は、F値の他に、焦点距離と撮影距離を加えた3つの要素で決まります。ボケ具合とはすなわちピントの合う範囲の違いのことで、このピントの合う範囲のことを被写界深度と言います。F値が小さく、焦点距離(レンズからイメージセンサーまでの距離)が遠く、撮影距離(被写体とカメラの間の距離)が近いほど被写界深度は浅く(ボケ量が多く)なります。
ならば「F値の小さいスマホカメラなら一眼で撮ったような綺麗なポートレートが撮れるのか!?」と思いがちですが、実際はそう上手くいきません。綺麗なボケを活かしたポートレートは中望遠(焦点距離85mm)以上で撮影されたものが多く、スマホのカメラにはそこまでの焦点距離のレンズが付いていないと言うのが主な理由です。小さな物を接写すればレンズのボケをある程度活かした写真を撮ることは可能ですが、人物となるとなかなか難しいのが現状です。
ではスマホで人物を綺麗に撮るにはどうすれば・・そんな悩みにお応えするのが「被写界深度エフェクト」と呼ばれる機能です。
iPhoneをお持ちの方はポートレートモードを使った事がある方も多いと思いますが、まさにアレが被写界深度エフェクトです。詳しい説明は割愛しますが、デュアルカメラとニューラルエンジンを使って擬似的なボケを作り出す機能なのです。
最新のiPhoneではかなり自然なボケを演出する事が可能になりました。Google Pixelなど、iPhone以外でもポートレートモードに対応したandroid端末もあります。
機種変更を検討されている方は、是非ポートレートモードを選ぶ基準にしてみてはいかがでしょうか。
階調豊かに写すにはダイナミックレンジが重要
ダイナミックレンジとは
スマホカメラの性能を知るうえで、もうひとつの重要な指標となるのがダイナミックレンジです。英語で書くと Dynamic Range で、直訳すると「動的な幅」という意味になりますね。
ここでの幅とは電子機器が処理できる信号の最大値と最小値の範囲のことで、デジタルカメラにおけるダイナミックレンジとは、カメラが処理できる「明暗の幅」のことになります。
皆さんも恐らく経験したことがあるかと思いますが、例えば日中の陽が差している明るい状況において、白い洋服などが真っ白に写ってしまって洋服と背景の境界が分からない写真になってしまうことがあります。これが俗に言う「白飛び」の状態で、写真のみならず動画などでも頻繁に見られる事象です。
これは、カメラのダイナミックレンジの最大値を越えた場合に起こる症状で、下の写真のような状態を指します。
それとは逆に、主に夜間など光量が少ない場所などにおいて写真を撮ると、暗い部分が黒く塗りつぶされたような感じになってしまい、キレイに撮影できないという問題が生じます。こちらは「黒つぶれ」という事象で、カメラのダイナミックレンジの最小値を下回った時に起きる現象です。
つまり、ダイナミックレンジとは、カメラで描写できる光の最大値と最小値の比率を示した数値であり、dB単位で表記されたり、10000:1ルクスといった明るさの単位のレンジで示されることも多いようです。
ダイナミックレンジはセンサーサイズ(イメージセンサーの大きさ)に比例する傾向があり、フルサイズ一眼と比べてセンサーサイズが大幅に小さいスマホカメラのダイナミックレンジは狭い傾向にあります。
フルサイズ一眼と比較すると、スマホカメラは明暗差が大きい状況下での撮影には不向で、ピントを合わせる場所によって白飛びや黒つぶれが起きやすいのは事実です。
白飛びや黒つぶれを軽減するHDRとは
「では、スマホでは明暗差が大きな写真は撮れないの?」という疑問が生じるかもしれませんが、心配ご無用。ご存知の方も多いと思いますが、例えばiPhoneでは古くからカメラアプリにはHDRという機能が搭載されており、明暗差が大きな 状況でも白飛びや黒つぶれのない写真が撮影できるようになっています。
HDRとは「High Dynamic Range」の略で、露出を変えた写真をで高速で連続撮影し、カメラ内部で合成して明るい部分から暗い部分までの諧調を綺麗に再現する機能になります。
例えば、窓から差した日光が当たっている部分と当たっていない部分での明暗さが大きい被写体を撮影する場合などに有効です。
もちろん、撮影シーンによってHDRが有効となる場合もあれば、HDRを使用しない方が良い場合もあります。しかし、iPhoneの場合、HDR機能で撮影した写真と通常の写真が自動保存される設定で解除もできます)ので、どちらの写真の方が綺麗に撮影できているかを比較することも可能なのです。
このように、スマホカメラにおいてはダイナミックレンジの幅が相対的に狭い分、それを補完する機能が搭載されていることから、現状ではダイナミックレンジの幅で性能を左右するということにはなっていません。
ダイナミックレンジが広いカメラほど高性能であることは間違いないのですが、現状販売されているスマホカメラにおけるダイナミックレンジ差は極わずかなので、それを補完するHDRなどの機能の充実度で、カメラ機能を判断すると良いでしょう。