ノルウェーのオーロラ

日本で赤いオーロラを観測!?オーロラと太陽フレアの関係とは

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2024年の5月8日から15日にかけて、「Xクラス」と呼ばれる最大規模の太陽フレアが13回発生しました。

そのうちの最初の72時間、5月8日から11日にかけては計7回のXクラスの太陽フレアが発生しており、これは観測史上初めてのことだそうです。

この影響により世界各地で低緯度オーロラが観測され、ドイツやスイスなどのヨーロッパ各地、アメリカ北部、南半球のニュージーランドやオーストラリアなど、普段は見られない低い緯度の地域で撮影された数々の美しいオーロラの写真がSNS等に投稿され、大きな話題になりました。

西オーストラリ州で撮影された低緯度オーロラ
オーストラリアの低緯度オーロラ

日本国内でも、5月11日の夜に北の空が赤く染まる現象が東北や北海道で観測されました。肉眼ではぼんやりと分かる程度だったそうですが、写真にははっきりとその様子が写り、驚きをもって伝えられました。

北海道 苫前郡初山別村で撮影されたオーロラ
北海道の低緯度オーロラ
出典: ウェザーニュース

冒頭でお伝えした通り、今回の低緯度オーロラは太陽フレアの影響によるものですが、そもそもオーロラはどのようなメカニズムで発生するのでしょうか。どのような条件が揃えばオーロラが見られるのでしょうか。なぜ大規模な太陽フレアが連続して起こると低緯度オーロラが発生するのでしょうか。

今回はオーロラの仕組みや太陽フレアとの関係について、詳しく見ていきたいと思います。

オーロラ発生の仕組みと見られる条件

太陽の表面温度はおよそ6000℃ですが、その表面から2000kmほど離れた上空には、電離によって生じた荷電粒子から成る100万℃以上の高温の気体(プラズマ)が存在します。そのプラズマから成る大気層のことをコロナと呼び、コロナからは絶えず宇宙空間に向けてプラズマが放出され、その質量は毎秒100万トンにも達します。

太陽から放出されたプラズマの流れを太陽風と呼び、地球にも絶えず吹きつけているのですが、地球は強力な磁気バリアによって守られているため、太陽風が地上に届くことはありません。

このバリアによって守られる領域、すなわち磁場の影響を強く受ける領域のことを地球磁気圏と言いますが、地球磁気圏の夜側には磁場が弱くなった領域があり、そこからプラズマの一部が侵入して磁気圏の内部に溜まります。このプラズマ粒子が溜る場所をプラズマシートと呼び、オーロラを発生させるエネルギーの貯蔵庫となっているのです。

磁気バリアと太陽風

プラズマシートに溜まった電子やイオンは、磁カ線に巻きつきながら地球に勢いよく降り注ぎます。この降り注いだ大量の電子は、地球の極が近づくにつれて速度を落としますが、大気圏に到達する前に再び加速し、大気圏上部にある電離層(電離圏)に存在する酸素原子や窒素分子などと激しく衝突します。

その衝突によって発せられる光がオーロラなのです。

オーロラが見られる条件

オーロラは1年中、地球のどこかで頻繁に発生していますが、下記の条件が揃わなければ観測することはできません。

  1. 時間帯
  2. 緯度
  3. 天候
  4. 暗さ

先ず、時間帯についてですが、プラズマシートは地球磁気圏の夜側に形成されるので、夜間にしか見ることができません。

次に緯度についてですが、頻繁に出現するエリアは北緯・南緯ともにだいたい65度から70度の範囲です。この範囲のことをオーロラベルト(オーロラ帯)と呼びます。

天候も関係します。上空にオーロラが発生しても、曇っていては見ることができないので、晴天であることが絶対条件です。

また、空が暗いことも条件の一つです。星の観測と同様に、街の灯りはオーロラ鑑賞の大敵です。人工的な光の影響が少ない暗い場所が鑑賞に適しています。

以上の条件を満たす、オーロラ鑑賞に最適な場所をいくつかご紹介しましょう。


ノルウェー

ロフォーテン諸島のオーロラ
ノルウェーのオーロラ

北緯67度付近にあるノルウェー西海岸の港町ボードーより北がノルウェーでのオーロラ鑑賞地になります。特に、洋上のアルプスとも呼ばれるロフォーテン諸島に発生するオーロラの美しさは格別で、鑑賞ツアーが組まれるほどです。


デンマーク領 グリーンランド

グリーンランド ヌークのオーロラ
グリーンランドのオーロラ

グリーンランド最大の都市であるヌークは北緯63度〜66度に位置し、オーロラが見られる都市としても有名です。街明かりとオーロラのコラボレーションを鑑賞するという、貴重な体験が出来る街なのです。


アラスカ州(アメリカ合衆国)

フェアバンクスのオーロラ
フェアバンクスのオーロラ

北緯64.8度に位置するアラスカ州の都市フェアバンクスは、内陸であることから晴天率が極めて高く、なんと年間で240日以上もオーロラを鑑賞することの出来る、まさにオーロラの聖地です。

なお、南磁極を中心としたオーロラベルトでもオーロラ(Southern lights)は発生しますが、発生場所が南極大陸とその周辺の海に位置するため、南半球はオーロラ鑑賞には適していないのです。

太陽フレア

さて、ここまで解説してきた通り、オーロラとは、コロナから放出されたプラズマが太陽風に乗って地球に吹きつけられ、地球磁気圏の内部に侵入したプラズマ粒子が大気に衝突して発光する現象のことです。オーロラが頻繁に出現するのは、緯度65度から70度に現れるオーロラベルトと呼ばれるドーナツ状の地域です。

ところが、コロナ質量放出(CME: Coronal mass ejection)と呼ばれる現象により、オーロラベルトよりも低緯度側でオーロラを観測できる機会が稀に訪れます。この(低緯度オーロラを引き起こす)コロナ質量放出と強い関連があるのが太陽フレアなのです。

太陽フレアとは

太陽の表面には黒い斑点のように見える場所があります。これを黒点と呼びます。黒点の温度は周囲よりも低いのですが、逆に磁場は周囲よりも強力です。この強い磁場に蓄積された磁気エネルギーが解放されることにより、黒点周辺では時として大爆発が起こります。この大爆発が太陽フレアです。

NASAが捉えた太陽フレアの画像
太陽フレア

太陽活動は約11年の周期で変化し、最も活発になる太陽活動極大期が近づくにつれ黒点の数は増加し、大型の黒点が出現するようになります。太陽フレアの発生頻度と規模もこの周期的な黒点の変化と連動します。

2019年12月に始まった太陽活動周期(サイクル25)のピークは2025年とされてきましたが、最新の予測では2024年1月から10月の間に修正されました。2024年5月に連続して発生した太陽フレアが活動のピークだったのか、あるいはピークはまだ先にあるのかは、1年後にはっきりするでしょう。

ちなみに、太陽フレアはその規模によってA・B・C・M・Xの5段階の等級があり、Xがもっとも大きな規模、さらにX規模のなかでもX8.0やX9.0といった具合に、数値が大きいほど、爆発現象の規模が大きくなります。

2000年以降に発生した主なX等級の太陽フレアの規模は以下の通りです。

  • 2003年11月4日: X28 ←観測史上最大
  • 2006年12月5日: X9.0
  • 2017年9月6日: X8.3
  • 2024年5月15日: X8.7

太陽フレアによって引き起こされる磁気嵐

太陽フレアに伴うコロナ質量放出により、高エネルギー粒子が地球に到達すると、地磁気に大きな乱れが生じます。これが磁気嵐です。磁気嵐が発生すると、オーロラベルト(オーロラ帯)が赤道側に拡大し、通常は見られない低緯度でオーロラが観測されます。

これらのことから分かるように、大規模な太陽フレアが発生すると、以下のプロセスを経て低緯度オーロラが出現するのです。

  1. コロナ質量放出が起きる
  2. 磁気嵐が発生
  3. オーロラベルトが赤道側に拡大
  4. 低緯度オーロラが出現

低緯度オーロラの発生以外にも、磁気嵐は様々な影響を地球に及ぼします。その影響は高緯度ほど大きくなり、磁気嵐の規模によっては深刻な被害をもたらす可能性もあります。実際、1989年3月に起きた磁気嵐によりカナダのケベック州にある発電所の送電システムが障害を起こし、大規模な停電が発生しました。その他、人工衛星を使った通信システムやGPSにも障害が発生した事例がいくつかあります。新たな自然災害とも言える太陽フレアへの対策は、今後の人類にとっての重要な課題でしょう。

オーロラと芸術 ~色彩の秘密と歴史史料~

さて、ここまでオーロラ発生のメカニズムや太陽フレアの影響について解説してきましたが、最後にオーロラの色彩の秘密や、太古から神秘的な事象として人々を魅了してきたことが分かる歴史的資料について見ていこうと思います。

オーロラの色の仕組み

オーロラには緑、ピンク、赤などの色の違いがありますが、どのような仕組みでオーロラの色が決まるのでしょうか。それはプラズマのエネルギーと高度(=大気の密度)によって決まります。


プラズマのエネルギーが弱いと、高度200キロメートル以上の高い高度で酸素原子が衝突して発光 => 赤色

プラズマのエネルギーが強いと、高度100 〜200キロメートルの低い高度で酸素原子が衝突して発光 => 緑色

さらに強いエネルギーを持ったプラズマがあると高度100キロメートル以下で窒素分子が衝突して発光 => ピンク・紫

オーロラの色と高度

一番多く見られるのは緑のオーロラで、赤やピンクが見られるのは稀です。

昔の人によるオーロラの描写や記述

現代ではオーロラのメカニズムは解明されており、美しい自然現象という事を誰もが理解していますが、昔の人々はオーロラをどのように見ていたのでしょうか。オーロラを描写した絵画史料をいくつかご紹介します。

フレデリック・エドウィン・チャーチによるオーロラの油彩
フレデリック・エドウィン・チャーチ 1865年の油彩
出典: Aurora Borealis | Smithsonian American Art Museum
オーロラのクロモリトグラフ
1908年頃に描かれたオーロラのクロモリトグラフ
出典: Wikimedia

日本の古典籍にも低緯度オーロラと思われる記述や絵図が幾つも残されており、古くから国内でも低緯度オーロラが確認されていたことを裏付けています。

「オーロラが何なのか?」という存在そのものが判明していなかった17世頃までは、緑色の通常のオーロラも、赤色の低緯度オーロラも、神秘的な象徴や恐怖の対象として見られていたようで、上記でご紹介した作品以外にも、世界的なさまざまな作品でオーロラが描写されています。

スタッフBも、いつの日かこの目でオーロラを見て、その神秘的な光景からインスピレーションを得たいと思う今日この頃です。

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Staff B
Staff B

一度きりの人生を思いのまま生きている、飽くなき探究心が原動力のサブカル系アラフォー女子。流行に左右されず、趣味もファッションも独自路線を進み続けているため同世代の友人は少ないもものの、気の合う仲間とハイボールで乾杯するのが何よりの楽しみ。最近は奇岩と巨石にどハマり中!多趣味であるが故の金欠が最大の悩み。