4大天然繊維とは?
洋服を選ぶとき、あなたは何を基準にしていますか?
デザインやシルエット、ブランドで選ぶ人も多いかと思いますが、素材から選ぶことでのメリット・デメリットを知ることで快適な着心地を実感できるものです。
夏の衣類はさらりとした肌触りと吸水性・速乾性に優れた麻素材
冬の衣類はふんわりとした肌触りに暖かみを感じられるウール素材
というように、私たちが普段着用している衣類には様々な素材があり、それぞれ利点があるものです。これらの素材は色々な工程を経て、糸から生地が作られ、その糸の元になる繊維には、綿やレーヨン、ポリエステルなどがあります。
天然繊維と化学繊維
繊維の種類は大きく分けると「天然繊維」と「化学繊維」の2種類に分類されます。
天然繊維とは主原料が天然素材もので、綿や亜麻などの植物からなる「植物性繊維」と羊毛や絹などの動物から採取される「動物性繊維」などがあります。これに対して、化学繊維とは、石油などから合成される「合成繊維」と植物の天然由来成分を化学的に処理してつくられる「再生繊維」などがあります。
また、天然繊維と化学繊維の見た目はどちらも同じように見えるものの、メリット・デメリットが全く異なります。
天然繊維
メリット:肌への負担が少ない。吸湿性が高いため一年中快適に使える。
デメリット:シワになりやすいのでお手入れの必要がある。価格は高め。
化学繊維
メリット:シワになりにくく、お手入れしやすい。価格は比較的リーズナブル。
デメリット:通気性や吸湿性が低く、静電気を起こしやすいために肌への負担が大きい。
このように一口に繊維と言っても様々な種類があり、その性質は多種多様です。
そんな繊維について今回は天然繊維にフォーカスし、
4大天然繊維と呼ばれる「麻類、綿(コットン)、絹(シルク)、羊毛(ウール)」
の起源と歴史についてお伝えします。
衣類や寝具、カーテンなどの生活用品おいて、私たち人間が快適な暮らしを送る上で不可欠の材料である繊維。その繊維は私たちの祖先は今から1万年以上も昔から動植物から繊維を集め、糸を紡ぎ、生地に仕立てていました。人類の進化とともに発展してきた繊維にはどんな歴史があるのかご紹介します。
エジプトのミイラは亜麻布に包まれていた?!人類最古の繊維について
天然繊維にはとても深い歴史があるため全てが明らかにはなっておりませんが、4大植物繊維の起源となる主な生産地は
- 麻類:エジプトなど
- 綿:メキシコやインド
- 絹:中国
- 羊毛:イラン(ペルシャ)
人類が動植物から繊維を集めて布などにして用いたのは今から約10,000年前。メソポタミア文明発祥地であるチグリス川・ユーフラテス川やエジプトなどで亜麻が栽培されるようになり、亜麻繊維から糸を紡ぎ、染色し、その糸を結んで活用していたと考えられています。
その後、アルプスの水中に眠る6000年~7000年前の古代遺跡では亜麻繊維を利用したもの、エジプトでは約4000年〜5000年前のミイラが包まれている亜麻布を発見させているのように、亜麻(あま)は人類最古の繊維とされているのです。
ここからは、麻類、綿(コットン)、絹(シルク)、羊毛(ウール)についてそれぞれ見ていきましょう。
麻類
麻とは植物から作られる繊維の総称であり、ラミー(苧麻・ちょま)、ジュート(黄麻・おうま)、ヘンプ(大麻)などがありますが、人類最古の繊維はリネンと呼ばれる亜麻(あま)です。
亜麻の起源は上記の通りとなりますが、その後8世紀頃になるとイタリアやスペインを経てヨーロッパ全域に広がり、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命で綿が主流になるまでヨーロッパの基本繊維であり、下着やシーツ、枕カバーなどに用いられていました。
綿(コットン)
衣類の中で身近な素材の一つである綿とは、アオイ科ワタ属の植物から取れる「ワタ」の種子を包む白色の毛状繊維を布地に織ったものです。
その歴史は約8,000年前のメキシコや約4,500~5,000年前の古代インドのインダス川流域や南アメリアのペルーなどで栽培されていたとされています。その後18~19世紀には世界各地で栽培されるようになり、19世紀中ごろのアメリカ南部は「綿花王国」と呼ばれるほどの世界最大のワタ生産地となりましたが、その背景には黒人奴隷の過酷な重労働があったとされているのです。
絹(シルク)
上品で美しい光沢があるシルクは、蚕(カイコ)の繭(まゆ)から取れる繊維です。養蚕のはじまりは7000年〜8000年前の中国。3000年〜4000年前からシルクの生産が本格的になり、2~3世紀ごろには絹織物がチベットを経てインド、5世紀ごろにはギリシャやローマに伝わりました。
中国は養蚕と製糸の技法を独占したために、交易によってしか入手できない稀少さから高級な繊維として扱われ、ユーラシアを東西に走る交易路を「シルクロード(絹の道)」と呼ばれていましたが、その後製法が漏れ世界に広がりました。
羊毛(ウール)
その名の通り羊の毛を原料とする動物繊維の羊毛。今から約10,000年前のメソポタミア文明で牧羊が始まり、その後に刈り取った羊毛で初めて毛織物を作ったといわれています。そして、古代エジプトやギリシャ、オーストラリアや南アフリカなどに伝わり、より良質の羊毛を取るために品種改良に努力を重ねました。
四大植物繊維の日本における歴史
日本においては、縄文時代早期の鳥浜貝塚遺跡で大麻製の縄が発見されました。縄文時代の人の移住に伴い大麻(おおあさ)が伝来したと考えられており、縄の他にも大麻で和紙や魚を取る網や釣り糸などに加工されていたとされています。
その後、色々な用途に使用されながら、明治時代から昭和中期くらいまでの紳士用の夏スーツの定番素材となっていた大麻ですが、シワになりやすいという欠点があるため、今ではポリエステルなどと混紡されることが多いでしょう。
絹は弥生時代前期(紀元前 3世紀)頃に中国の江南地方から朝鮮半島を経て、北九州で養蚕技術を伝えられました。時は流れ、江戸時代になるとヨーロッパでは蚕の病気が蔓延し、蚕種(蚕の卵)や生糸が不足したため、瞬く間に蚕種や生糸の貿易が盛んになり、
日本は世界最大の生糸輸出国になりました。
繊維の女王とも呼ばれる絹は、美しい光沢と優れた染色性のため、現代においても着物や洋服、ネクタイやスカーフなど様々な分野で使われています。
また、綿は延暦18年(799年)に伝来したものの、麻の製品が用いられていたために綿の種子は定着することなく途絶えてしまいました。鎌倉時代頃から庶民の生活に普及しはじめ、江戸時代では日本全国で一般庶民用の衣服素材として広まりました。現代でも下着をはじめとした衣類や寝具などのあらゆる製品に使用されています。
羊毛に関しては、江戸時代後期に羊の家畜化が試されたものの成功しませんでした。そのため、明治時代になるとの南千住製絨所が開設され、
日本の羊毛産業は羊毛を輸入し、国内で優れた羊毛製品を開発・生産する
というかたちで発展してきたのです。
羊毛の製品といえば、絨毯やセーターなどの秋冬用の素材だと認識している人が多いですが、羊毛の特徴は温かさだけではなく、優れた吸放湿性から春夏用の素材としても使われています。
いかがでしたか。
「人類の発展は繊維にあり」ともいえるように、麻・綿・絹・羊毛の4大天然繊維の歴史を知ることで、改めて世界史を学ぶことができるものです。