先史時代のイメージ

先史時代とは何か?DNA解析によって解き明かされる人類史の謎

Staff B / 2024年9月10日

みなさんは、先史時代(せんしじだい)という言葉をご存知ですか?


先史時代とは考古学における時代区分のひとつで、英語では「Prehistory」と表記されます。この言葉は「pre=以前」と「history=歴史」を組み合わせたもので、「有史時代の前」を意味します。有史時代とは歴史時代とも呼ばれ、人類が文字を発明し、文字による記録が残るようになった時代を指します。

つまり、先史時代とは、文字による記録が存在しない時代のことなのです。


実際には、人類が道具を使うようになった頃から文字による記録がない時代に限る場合が多く、人類が石材を用いて道具や武器をつくっていた石器時代から青銅器時代、鉄器時代くらいまでを示しますが、チンパンジーやオランウータンなどの類人猿と同じ祖先から進化したヒトは、どのように進化を遂げたのでしょうか。


そこで今回は、2024年現在の史料による人類の誕生から文字による記録が残される以前についてお伝えしていきます。DNA解析の驚異的な進歩により、これまで解明されていなかった人類史の謎が解き明かさせる日もそう遠くはありません。



人類学とDNA解析


私たちが住んでいるこの地球は45億数千万年前に形成され、人類は700万〜500万年前のアフリカでが誕生したと考えられています。しかしながら、人類誕生の謎はいまだ解明されておらず、人類学をはじめ、考古学や古生物学、遺伝学などのさまざまな学問分野がこの謎に挑んでいます。


中でも、古代の遺跡や化石を通じて、人類の進化過程を探求する学問である人類学は、DNA解析技術の進化により驚異的な研究結果が期待できるようになってきました。

DNA解析とは多くの生物の遺伝情報を解明することで、1983年にはDNA合成を繰り返し、DNAを増幅する技術「PCR法」が開発されたことにより、古代人の断片化されたDNAを鑑定することが可能となり、2006年には高速で大量のDNAの塩基配列を解読する装置「次世代シークエンサー」が実用化され、さまざまな生物の核DNAの解読が可能となったのです。


このPCR法と次世代シーケンサーなど活用し、「絶滅した人類の遺伝情報(ゲノム)を解析する技術」を確立したスウェーデン出身のスバンテ・ペーボ博士は、2022年ノーベル生理学・医学賞を受賞。ノーベル生理学・医学賞とは、主にウイルスの発見や治療法に関する発見などの医学の発展に貢献した学者に贈られることが一般的であり、人類学が受賞するのは極めて異例なことなのです。


ペーボ博士は1980年代からDNAの研究を始め、2010年には現代人類(ホモ・サピエンス)と非常に近い関係にある種である、約4万年前までユーラシアに住んでいたネアンデルタール人のゲノム解読に成功。現代人類(ホモ・サピエンス)と比較することで、両者の遺伝的な違いと共通点を明らかにし、現代人類(ホモ・サピエンス)のDNAにはネアンデルタール人由来のDNAが約2〜4%含まれていることを解明したのです。


また、シベリアで発見された小さな指の骨からは、新しいヒト属「デニソワ人」を発見し、現生人類の進化の歴史がさらに複雑であることを示したのです。なお、私たちが受け継いでいるネアンデルタール人由来の遺伝子の中には、妊娠や出産に関わることや鎮痛成分イブプロフェンの効きやすさ、さらには新型コロナウイルス(COVID-19)の症状の重症化に関係している可能性があることが分かったのです。


ペーボ博士の研究は、先ほどお伝えした次世代シーケンサーを開発当初に活用したことが大きな成果のきっかけであり、まさに「テクノロジーが不可能を可能にした」といっても過言ではないでしょう。DNA解読技術の発展により、人類の誕生や進化に関する理解は急速に深まっていますが、まだ解明されていない部分も多く残されています。今後もこれらの分野の研究が進むことで、どのようにしてヒトが進化してきたのかについて、さらに詳しい答えが得られることでしょう。



猿人の誕生

人類の進化イラスト


私たち人類の祖先は、チンパンジーやオランウータン、ゴリラやなどの類人猿の祖先と同じであり、その共通祖先から下記のようにゆっくりと時間をかけて進化したと考えられています。


猿人(ラミダス猿人など) → 原人(ホモ・エレクトスなど) → 旧人(ホモ・ネアンデルターレンシスなど) → 新人(ホモ・サピエンス)


最古の人類である猿人といえば、約400万年前からアフリカで生存していたの「アウストラロピテクス」と学んだ人も多いかと思いますが、現在においては、2001年7月にアフリカ中央部のチャド共和国で発見された頭がい骨の化石サヘラントロプス・チャデンシス」が、最古の人類ではないかと考えられています。


サヘラントロプス・チャデンシス

約700万年のアフリカ大陸北中部に生息していたと考えられている、人科サヘラントロプス属の唯一の種。誕生したのはヒトがチンパンジーとの共通祖先から分岐した直後、もしくはその直前とされ、直立二足歩行を行った最初の人類という説が有力。


アルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人)

エチオピアの440万年前の地層から化石が見つかったアルディピテクス・ラミダスは、約580万〜約440万年前のエチオピアに生息していたと考えられている。足の指はチンパンジーと似ており、手の指のように物を掴める構造になっているものの、骨盤や背骨、頭蓋骨の特徴から直立二足歩行ができていたとされています。


アウストラロピテクス

数多くの化石が発見されているアウストラロピテクス属は、400万年前 - 約200万年前にアフリカで生存していたと考えられています。1974年に発見されたアウストラロピテクス・アファレンシスの女性の化石は、ビートルズの「Lucy in the Sky with Diamonds」に因んで「ルーシー」と命名されました。ルーシーは、全身の骨格の40%しか残っていなかったものの、古生物学的にはとても良い状態で保存されていたため、これまで分からなかった人類の進化に関する研究に大きな影響を与えました。



ホモ属の登場


ホモ属のホモとは、ラテン語で「人間」を意味し、霊長目ヒト科ホモ属(ヒト属)に分類される哺乳類の総称であり、いわば人類です。ホモ属はおよそ200万年前にアフリカでアウストラロピテクスから分岐したと考えられています。


ホモ・エレクトス

約180万年前頃、猿人から進化した初期のホモ属であるホモ・エレクトスは、脳容積が増大したことにより、火の使用や言語の獲得、石器製造などが行われるようになりました。直立二足歩行はもとより、走る能力も身につけて、狩猟を行って肉を食するようになったのが大きな特徴です。また、ホモ・エレクトスの一部は人類で初めてアフリカの外へ出て、ユーラシアへ広がりました。その後、約160万年前頃にはジャワ原人や北京原人として繁栄したのです。


ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)

約40万年前から約4万年前に生存し、その後絶滅してしまったネアンデルタール人は、ヨーロッパや中近東にて生活していました。前頭葉は発達し、喉や胸骨の構造は現代人とほぼ同じとなるものの、抽象的、象徴的な言語体系はなかったと考えられています。狩猟採集生活を行い、毛皮をまとい、洞窟で火を焚いて暮らしていました。また、死を悼む心を持っていたようで、死者を埋葬していたそうです。


ホモ・サピエンス

私たち現代人の直接的な祖先であるホモ・サピエンス。約20万年前に登場し、ネアンデルタール人などと同じ時代に暮らしていたものの、現在において唯一の生存種です。約16万年前に西アジアに入ってユーラシア全域に広がり、5万年〜4万年頃にはクロマニヨン人が西アジアやヨーロッパで繁栄したと考えられています。その後、オーストラリアやアメリカ大陸へと進出したと考えられています。言葉を操れ、物事を深く考えることができるようになったことから、文化や技術、社会的構造などにおいて大きな発展を遂げたのです。



石器時代の区分

石器時代の壁画イメージ


先史時代の考古学上の時代区分は、ヒトが使用していた道具の素材(石器、青銅器、鉄器)により、石器時代、青銅器時代、鉄器時代に分かれます。中でも、約260万年前から約3000年前まで続いたとされている石器時代は、大きく分けて「旧石器時代」と「新石器時代」に区分されます。


旧石器時代

旧石器時代は、およそ260万年前から1万年まで続いたとされます。最古のものは自然石の一部を打ち砕いて作った単純な打製石器で、ホモ・ハビリスが使い始めたと考えられるオルドワン石器として知られています。

やがて主役はホモ・サピエンスへと移り、技術や芸術活動が発展した時代まで続きました。この時代は石器から作られた道具や武器を用いて、狩猟や採集を中心とした生活が行われていました。火の利用や原始的な社会の形成もこの時代に始まったとされています。


新石器時代

新石器時代は、石の表面を磨いて刃を鋭くして形を整えた磨製石器(ませいせっき)や土器を使うようになった時代です。また、地域によっては麦や豆などの栽培、羊、山羊、牛、豚などの家畜が始まったことにより、狩猟採集生活から農耕と牧畜を中心とした定住生活に移行し、社会や技術が大きく発展した時代といえます。



まとめ

今回は文字による記録が存在しない先史時代についてお伝えしました。人類はアフリカの地で誕生し、数百万年にわたる進化の過程を経て現在の姿に至りましたが、文字による記録が存在しないため、当時の人類の生活や文化を知る手がかりは非常に限られています。

ですが、近年のDNA解析技術の進展により、化石や遺物からも詳細な情報を得ることが可能となり、ホモ・サピエンスの起源や他のホモ属との関係性、さらには人類の移動や交配の歴史が明らかにされつつあります。人類はいつ誕生したのか?といった壮大な研究をし続けている研究者によって、私たちの祖先がどのような環境で生まれ、どのように進化してきたかを解明できる日は、そう遠くないのかもしれません。


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一度きりの人生を思いのまま生きている、飽くなき探究心が原動力のサブカル系アラフォー女子。流行に左右されず、趣味もファッションも独自路線を進み続けているため同世代の友人は少ないもものの、気の合う仲間とハイボールで乾杯するのが何よりの楽しみ。最近は奇岩と巨石にどハマり中!多趣味であるが故の金欠が最大の悩み。