近代ヨーロッパ文化の基礎を築いたルネサンス
14世紀~16世紀にかけてイタリアから西ヨーロッパ本土へ広がったルネサンス。
ルネサンスとはフランス語で「再生」を意味する言葉ですが、科学の復興と進歩による革新的な芸術運動であり、
政治や宗教など近代ヨーロッパ文化の基礎を築いた
とされているのです。
というのも、アルファベットの起源ともなるギリシア文字を生み出した古代ギリシアでは、幾何学や医学などをはじめとした高度な科学や哲学などが発展し、古代ローマに引き継がれました。その後、中世のキリスト教によりそれらの学問は迫害されたものの、商工業者の独占的かつ排他的な同業者組合ギルドが「古代ローマの模倣をしよう!」と試みたことがきっかけとなっているのです。
そうして北イタリア・フィレンツェをはじめとした各地では、資産家たちの保護により美術史上で最も有名な絵画「モナ・リザ」を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチや、巨大な大理石から彫り出された「ダビデ像」を制作したミケランジェロなどの芸術家たちは様々な芸術活動を展開することができたのです。
さらにはヨーロッパ社会に大きい影響を及ぼしたとされる
三大発明と呼ばれる「火薬・羅針盤・活版印刷術」が普及したのです。
いずれも中国起源のものなのですが、東側の中国と西側のヨーロッパ諸国を結ぶ交易路によって様々な技術が伝来し、それを改良し実用化したことにより、ヨーロッパは世界で大きな力を持ち、現代のヨーロッパ主導ともいえる国際社会の土台が出来上がっていったのです。
- 火薬:火薬の燃焼力を用いた火砲の登場で強い軍事力得たことにより、諸外国との戦争で優位になり世界中に植民地を広げていった。
- 羅針盤:磁石を用いて方位を知るための道具、つまりはコンパスのこと。羅針盤が実用化されることにより、遠方への航海が可能となり貿易がより盛んになった。
- 活版印刷術:大量印刷が可能となり、聖書や歴史、技術などを世界に広く知れ渡れるようになった。
これらの三大発明があるからこそ現代があるのですが、今回は印刷の歴史シリーズ第2弾として、「活版印刷術の歴史」についてフォーカスしていきたいと思います。
活版印刷術とは
活版印刷とは「活字」と呼ばれる文字の型を並べた版を作り、そこにインクをつけて紙に圧力をかけて転写する印刷技術のことで、凹凸をつけた版の凸部にインクをつけて紙に転写する凸版印刷の一種です。
ハンコと同じようにインクを転写する原始的な方法で、
- 活字を選ぶ
- 文字を組む
- インクを塗布する
- 圧をかける
- インキが乾くのを待つ
といった、なんともアナログな作業工程ですが、このような印刷技術が発明されたのは11世紀中期頃の中国王朝の宋。ハンコのような金属を並べかえて新しい文章を作ったり、複製することが可能となりましたが、漢字の種類が豊富だったために活版印刷は廃れてしまったのです。
そして、中国で生まれたこの技術はのちにヨーロッパに伝わり、1450年頃にドイツ出身の金細工師ヨハネス・グーテンベルクによって金属で作った活字の凸部分を利用した活版印刷術が発明されました。
手作業ではできない大量複製を可能にした印刷機を考案
したことも画期的であり、印刷に使える紙を手に入れやすくなっていたこと、印刷インキの開発も進んだことなどが重なり、活版印刷の技術が実用化していったのです。
活版印刷術による西洋最初の本格的な書物は「グーテンベルク聖書」や「42行聖書」、「マザラン聖書」と呼ばれるもので、
活版印刷による革命と呼ばれるほどの文化転換
をもたらすことになりました。
これまで聖書をはじめとした当時の書物は、膨大な時間をかけて人が手で書き映していことにより価格は高価で庶民には手が届くことはありませんでした。しかし、活版印刷の技術より作り出された書物は支配階級だけでなく、庶民にも手に入れることができるようになったのです。
16世紀のキリスト教世界の分裂を引き起こしたルターの宗教改革では、ラテン語の聖書がドイツ語に訳されたものなどを大量印刷し、ルターの主張を民衆に広げることに成功したといわれているのです。
このようにルネサンス三大発明のひとつである活版印刷術は、印刷の革命であり、宗教改革に大きく貢献したもの。現代の私たちの生活では凹凸のある紙を見かけることはあまりありませんが、名刺やメッセージカード、ウェディングのペーパーアイテムなどでは今もなお需要があるのです。
活版印刷術は文字を組み合わせ、インクを塗って刷り込むまでの手作業の工程があるため、一般的な印刷と比較して価格が高価になってしまいますが、なんといっても
紙の凹みと独特なインクのにじみ具合
が活版印刷の魅力。
何気なく普段目にしている印刷物も印刷の歴史を知ることで今までとは違ったものが見えてくるものです。中国で生まれ、ヨーロッパで実用化され、のちに日本にも伝来した活版印刷。この技術の発展がなければ、文明の発展は随分遅れていたかもしれません。