ポリエステル繊維は染色しにくい?!
衣服はもちろん、シーツなどの寝具やカーテンなどのあらゆるファブリック製品は約80%が合成繊維で作られていて、その中でも
世界でもっとも生産量の多い素材といえば、ポリエステル。
ポリエステル繊維は石油などを原料にして作られており、最近では原料が同じペットボトルを再利用した、ポリエステル繊維のリサイクルTシャツやサスティナブルTシャツなど衣類も注目を集めています。
そんなポリエステルは、丈夫でシワになりにくく、吸湿性や吸水性が低いため汗で濡れても乾きやすい優秀な特徴をもつため、日常着はもちろんスポーツウェアの定番生地。
サッカーやバスケットボールなどのスポーツウェアとしては、光沢感があり、カラフルなイメージをお持ちの方も少なくないかと思いますが、
実のところポリエステル繊維は染色しにくいのです。
綿のハンカチや手ぬぐいなどを染める体験をしたことのある人も多いかと思いますが、綿は染まりやすい性質があるため、色のついた水に布を漬け込んだり、煮立たせたりすることで染め上がりますが、ポリエステルは分子構造が非常に緻密なため、染料が入り込む隙間がほとんどないため染まりにくいのです。
分子構造…、分子の結合…、なんだか化学の授業のようになってきましたが、簡単にいいますと、
繊維に色を付けることは繊維の分子と染料の分子を結合させる化学結合
であり、繊維を染色するためにはその繊維に適した染料を選ぶ必要があるのです。
つまり、コットンにはコットンに、ポリエステルにはポリエステルに適した染料があるのですが、このポリエステルに適した染料が原因でプリント箇所が変色してしまう事があるのです。プリントしたインクに染料が移行してしまうブリード(昇華移染)と呼ばれる現象なのですが、これが意外に厄介なんです。
そこで、今回はこの厄介な現象の原因と対策について科学的に詳しくお伝えしたいと思います。
繊維が結合する染着力について
染料とは、洗っても簡単には取れない色素を持つ物質であり、繊維に対して染着(染まり着く力)力がある物質のことを指します。そして、染料の分子と繊維の分子が親和性(くっつく性質)を持っていれば、「染色される」ということになります。
染料と繊維が結合する染着力には、原子同士の結合と分子間の引力(分子間力)によって生じる結合があります。
原子同士の結合
共有結合
2つの原子が電子対を互いに共有し合うことによってできる結合のこと。
イオン結合
陽イオンと陰イオンとが結びつく結合のこと。
金属結合
原子核とその周りを動き回る自由電子(原子内を自由に動き回る電子)の間に働くクーロン力が金属原子どうしを結びつけること。
分子間の引力(分子間力)
ファンデルワールス力
極性分子の間にはたらく静電気的な引力や、全ての分子間にはたらく弱い引力のこと。
水素結合
OHやNHなどの電気陰性度が大きな原子(陰性原子)に共有結合で結びついた水素原子を仲立ちとして隣接する分子どうしが引き合う結合のこと。
なお、この化学結合の強さは、
共有結合 > イオン結合 > 金属結合 >> 分子間力
となり、結合が強くなればなるほど色が落ちにくくなります。
原子同士の結合と比較して分子間力は著しく弱いことがポイントなので、覚えておくとよいでしょう。
染料の種類・特徴について
また、染料には多くの種類があり、染色するには繊維に適した染料を使用することになります。
繊維とそれに適した染料の関係は下記の表の通りとなります。
直接染料 | 反応染料 | 酸性染料 | カチオン染料 | バット染料 | ナフトール染料 | 分散染料 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
化学結合 | 分子間力 | 共有結合 | イオン結合 | イオン結合 | 分子間力 | 分子間力 | 分子間力 |
綿、麻などの植物繊維 | ○ | ◎ | ○ | ○ | |||
羊毛、絹などの動物繊維 | ○ | ◎ | |||||
レーヨン | ○ | ◎ | ○ | ○ | |||
アセテート | ◎ | ||||||
ナイロン | ○ | ◎ | △ | ||||
ポリエステル | △ | ◎ | |||||
アクリル | △ | ◎ | ○ |
直接染料
染料をお湯または水に溶かして繊維を染色する方法となり、比較的手軽に染めることができます。
反応染料
染料と繊維を化学反応によって結びつける方法です。
分子レベルで結合するため、色の定着性がよく、耐久性に優れた染料です。
酸性染料
染色時に染液に「酸」を加えて染める方法となり、鮮やかな染色になるのが特徴です。
カチオン染料
アクリル繊維を染めるために開発された染料で、イオン結合により化学的に染色する方法。
分散染料と比較すると発色性が良く、染色堅牢度も優れているのが特徴です。
バット染料(建染染料)
藍染の藍などの水に溶けない染料を還元作用によってアルカリ性溶液に溶解して、繊維に吸着させ、その後、空気にさらして酸化させ、色を繊維に定着させる方法。
ナフトール染料
繊維上で水不溶性の原料を合成して染色する方法。
分散染料
不溶性の細かい微粒子状の染料を水に分散させて、繊維間に染料を入れ込んで染色する方法。
カチオン可染ポリエステルとは
これまで染料の種類を紹介しましたが、ポリエステルに適した染料は分散染料です。
ポリエステルは熱可塑性があるため、加熱によって分子間隔が広がり、分子間力によってポリエステル繊維に染着した分散染料の分子は自由に移動できる状態となります。その移動した分散染料の分子が(生地表面にプリントされた)インクの分子と結合してしまう現象が冒頭でもお伝えしたブリードで、一度ブリードが起きると元には戻りません。
ブリード対策としては、プリント加工時に低温で乾燥させることやローブリードインクを使用することが挙げられますが、100%防ぐことは難しいのが現状です。加工時に発生したブリードは検品によって発見することができますが、配送後に発生したブリードは防ぐことができません。
例えば、箱詰めにして配送された大量のプリントTシャツを、そのままの状態で高温多湿の環境下で長期間保管するとブリードが発生する可能性があります。このようなケースは稀ではありますが、実際にあるようです。
ブリードの根本的な原因は染色にあるため、染色手法そのものを改良することが有効な手段として考えられますが、最近ではその手段の一つとしてスルホン酸基を配合し、カチオン染料による染色を可能にしたポリエステル(カチオン可染ポリエステル)が開発・製品化されています。
カチオン染料は分子間力よりも遥かに強力なイオン結合によって染着するので、染色堅牢度は格段に高くなり、ブリードの発生リスクを低減することができます。
さらに、分散染料に比べて発色が良いというメリットもあるのです。
ですので、これからドライTシャツなどでオリジナルTシャツを作ろうと考えているならば、ぜひカチオン染料を使用したポリエステルTシャツの使用を検討してみてください。とはいっても、製品表示などには染料については記載されていないので、ブリードしにくい「ローブリード」をキーワードにして探してみてください。
カチオン染料を使用したおすすめポリエステルTシャツ
5660-01 5.6オンス ドライコットンタッチ Tシャツ(ローブリード)
カラー:7色 / サイズ:XS~XXL
5088-01 4.7オンス ドライ シルキータッチ Tシャツ(ローブリード)
カラー:7色 / サイズ:XS~XXXL
5088-02 4.7オンス ドライ シルキータッチ Tシャツ(ローブリード・キッズ)
カラー:15色 / サイズ:150、160
5089-01 4.7オンス ドライ シルキータッチ ロングスリーブ Tシャツ(ローブリード)
カラー:11色 / サイズ:XS~XXL