地球上における最古の文字は、紀元前3350年から3000年の間に古代メソポタミア時代のシュメール人が考案した楔形文字(くさびがたもじ)と言われています。そもそも楔形文字とはどんな文字なのか、楔形文字が誕生した背景や楔形文字を生み出したシュメール人とはどのような人たちなのか?、この記事ではそんな楔形文字誕生の時代背景や繁栄・衰退、現代における進化などを詳しくご紹介いたします。
楔形文字の誕生と発展
古代メソポタミア時代に誕生した世界最古の文字である楔形文字は、現在のイラクにあるチグリス川とユーフラテス川に挟まれた地域であるシュメールの古都ウルクで発見されたウルク古拙文字(象形文字)が発展してできた文字です。
紀元前4000年代のウルク期に使われていたとされるウルク古拙文字は、「拙(つたない)」の字のごとく象形文字もしくは記号のようなもので、当時の人たちが農作物や家畜の数などを記録するために使われていたそうです。その後、音を表す文字(表音文字)が生まれ、紀元前3500年頃から音と意味の両方を表わす楔形文字へと進化を遂げたのです。
ちなみに、現在では楔形文字よりも古い紀元前5200年頃のディスピリオタブレットと呼ばれる木製のタブレットがギリシャ北部で見つかっており、これが解読できれば文字の歴史が書き換わると言われるほど興味深い内容ですが、今現在これを解読するに至っていないため、現代においても楔形文字が世界最古の文字とされているのが世界的な共通認識です。
この古代メソポタミア時代のシュメール人が考案した楔形文字ですが、その後にシュメール人の都市国家を征服してメソポタミアを統一したアッカド人が継承する形で楔形文字を借用。元々文字を知らなかったアガット人は、アッカド語を表記するために楔形文字の改良を重ねたことで、異なる言語でも楔形文字で表記できる文字体系が確立。さらに、アッカド王国の支配がメソポタミア全域に及んだことによって西アジア地域の公用文字となり、多くの民族で楔形文字が使用されるに至りました。
その後、王朝の交代によりバビロニアやエラム、ヒッタイトやアッシリアなどの国々によって紀元前1000年頃まで、約3000年近くに渡り長期間広く使われ続けましたが、古代メソポタミア地域での政治的・文化的な変化が生じたことや、新しい支配者や文化が台頭したことにより、ギリシャ風の文化であるヘレニズム時代の到来に伴って楔形文字は衰退することになります。
なお、楔形文字に取って代わって使われるようになったのはアッシリア帝国(紀元前671年にメソポタミアと古代エジプトを含むオリエントを統一)のアラム語のアラム文字。アラム文字は子音を表す22文字で成り立つため、楔形文字と同様に文字体系は広範囲で流用できたこと、さらにアラム人がラクダを移動手段として幅広い地域で内陸貿易を行ったことで、アラム人の拠点である現シリアの首都ダマスカスを中心に周辺地域へ広範囲に普及しました。
このアラム語は、古代ペルシアに存在した最大の世界帝国であった王朝「アケメネス朝」が公用語に採用しいました。それと同時に楔形文字をベースとした古代ペルシア語も公用語としても用いられていました。古代ペルシア語で用いられていた文字は、アケメネス朝ペルシア文字もしくはペルシア楔形文字と呼ばれ、帝国の公用文字としてはペルシア楔形文字、民衆に広く用いられていた文字はアラム文字、といった具合に併用されていたことが明らかになっています。
ペルシア楔形文字は、書き順が左から右に進む点(アラム文字は右から左)など、これまでの楔形文字を継承している部分もありますが、古代メソポタミア時代に誕生した楔形文字とは見た目が類似している以外は関連性がほとんどありません。実際の使用例が国王の碑文に限定されていた点などからも楔形文字とは性質が異なり、古代ペルシア楔形文字がどのように誕生したのかなども未だ明らかになっていません。
楔形文字の3つの特徴
絵文字のようなものから始まった
下記の図をご覧いただければお分かりになるかと思いますが、楔形文字は3000年もの長期間にわたって使用されていたため、だんだんと簡略化されていきました。

紀元前2500年(青銅器時代初頭)は約1,000文字ありましたが、その後、ヒッタイト語の楔形文字では375文字、アッカド語の楔形文字では約200文字で構成されるようになりました。
表意文字と音も表す文字を併用
楔形文字の中には、象形文字として知られるような特定の単語や概念を表す記号(表意文字)のほかに、アルファベットやひらがななどの音だけを表す「発音文字」や漢字などの音や意味を表す文字「表意文字」、母音と子音を表す「音節文字」を併用しています。
これは、文字の歴史でとても重要なこととなり、定かではありませんが、多くの文字体型と記述法は楔形文字から派生したものなのかもしれません。
楔形文字は粘土板に刻んだ
楔形文字は粘土で作られた版が乾く前に、葦などで作ったペンで文字を刻んでいました。
メソポタミア地域は乾燥した気候だったために、粘土が容易に入手でき、さらには加工しやすかったたという理由があげられます。長期間保存が必要な文書や記録は焼き固め、保存が不要なものは再利用されていました。
なお、楔形文字の代わりに反映したアラム文字は、粘土板に代わる媒体としてパピルスや羊皮紙を使用していたとされています。
楔形文字を発明したシュメール人とは
ここまでは楔形文字についてご紹介してきましたが、この世界最古の文字を作ったシュメール人とは一体どのような民族だったのでしょうか?
メソポタミア文明の始まりとなる世界最古の都市国家をチグリス川とユーフラテス川の流域に築いたシュメール人。楔形文字を発明しただけではなく、建築や文学、天文学や医学、治水・灌漑技術を発達させるなど、様々な高度な知識を持っていたとされており、その後の文明の先駆的な功績を残したことで知られています。
ただ、シュメール人については謎が多く民族系統は不明、いつの時代にどこから来て、どこへ消えたのかは解明されていません。さらに、アッカドやバビロニアに支配された後、バビロニアがペルシア帝国に併合された時には歴史の表舞台から姿を消しているため、もしかしたら宇宙人なのではないのか?といった逸話もあるほど謎に包まれているのです。

出典: British Museum
そんな高度な知識や技術を持っていたシュメール人が築いた都市国家は、円形の城壁で都市を囲み、中心に神殿を、周辺に農村を配しています。また、ジッグラトと呼ばれる煉瓦を用い数階層に組み上げて建てられた巨大な聖塔を建設し、旧約聖書の『ノアの箱舟』の原型ともいわれる人類最古の物語「ギルガメッシュ叙事詩」を作成し、さらには医学書と思われるような粘土板も見つかっているのです。
ただし、紀元前2400〜2350年ごろがシュメール人文化の末期とされ、サルゴン王が率いるアッカド王国にシュメール都市国家を征服されてからはアッカド文化・アッカド語が主体となり、紀元前2000年ごろまでには、シュメール自体が完全に消失したと言われています。
デザインとしての楔形文字
上記でご紹介したとおり、現代にはない特徴的な形状の楔形文字は、文字単体でデザイン要素を兼ね備えているとも言えます。高度な文明を持ったシュメール人の功績を後世に残すうえでも、Tplantのデザインツールでは、この楔形文字をTシャツデザインとして取り入れることが可能になりましたのでご紹介いたします。
Unicodeに割り当てられた楔形文字
楔形文字はUnicodeに含まれており、テキストデータとして扱うことが可能。
Unicodeのブロックの範囲は以下の通りです。
- U+12000〜U+123FF:楔形文字(割り当て922文字)
- U+12400〜U+1247F:楔形文字の数字および句読点(割り当て116文字)
- U+12480〜U+1254F:初期シュメール王朝の楔形文字(割り当て196文字)
楔形文字変換ツール
いざ、Tシャツデザインに楔形文字を採用しようと思った際には、当然現代の文字(英語アルファベットなど)を楔形文字に変換する必要があります。そこで活用したいのが、ウェブ上に幾つか公開されている「楔形文字変換ツール」。入力したアルファベットを楔形文字に変換してくれるツールのほか、日本の平仮名を古代ペルシア楔形文字に変換してくれるものもありますので、使ってみたい楔形文字変換ツールを幾つかご紹介いたします。
GI-DUB [qantuppi]
こちらは楔形文字の入力を補助するツールです。
Cuneiform Translator
https://nextranslator.com/cuneiform
こちらはフレーズ単位で変換することができる実用性の高いツール。例えば、世界的に知られる映画「風と共に去りぬ(Gone with the Wind)」を変換すると
𒃀𒀭𒋠𒄀 𒆤𒁠𒋀𒄠 𒋀𒄠𒄀 𒆤𒁠𒋠𒂠
となります。(正確性は保証できませんが・・・)
JPNLAB 古代ペルシャ楔形文字
https://jpn-lab.com/script/kana-to-old-persian-cuneiform/
こちらは、古代ペルシアの楔形文字変換ツールで、しかも日本語(平仮名)に対応しています。試しに「はれのちくもり」を変換すると、
𐏃𐎠𐎼e𐎴o𐎫𐎡𐎤𐎶o𐎼𐎡
となります。(こちらも正確性は保証できませんが・・・)
なお、古代ペルシア楔形文字には「え」「お」に該当する母音がないため、入力した文字に「え」「お」の母音が含まれているとアルファベットのEとOに変換される点には注意が必要です。
楔形文字Tシャツを作ってみよう
冒頭でお伝えしたように、Tplantのデザインツールを使えば楔形文字Tシャツが簡単に作れます。通常の楔形文字と古代ペルシア楔形文字のどちらにも対応していますが、上記のような自動変換機能はありませんので、デザインに採用したい文字を上記変換ツールで変換したうえで、楔形文字をデザインツールにペーストしてみてください。入力した文字が楔形文字なら楔形文字フォント、古代ペルシア楔形文字なら古代ペルシア楔形文字フォントに自動的に置き換えられます
例)アルファベット「dragon」を楔形文字に変換してペースト

例)ひらがな「さくら」を古代ペルシア楔形文字に変換してペースト

なお、デザインツールで楔形文字を扱う際は下記の点に注意してください。
- 楔形文字と古代ペルシア楔形文字は混在させることはできません。
- 他の文字やスペースなども混在させることができません。