漢字のルーツは殷王朝にあり?!
私たち日本人が普段使っている漢字は、かつて中国から伝わったことは皆さんもご承知の通りですが、漢字とはいったいいつの時代に、どのようにして生まれたかご存じでしょうか。
漢字のルーツを辿ると、今から約3300年前の中国の殷(いん)王朝で使われた甲骨文字が発展して漢字になったと考えられており、下記のように長い時間をかけて変化していきました。
甲骨文字(こうこつもじ)
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金文(きんぶん)
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篆書(てんしょ)
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隷書(れいしょ)
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楷書(かいしょ)
まず、甲骨文字(こうこつもじ)は今発見されている漢字の中で一番古い漢字とされており、紀元前1600年頃~紀元前1046年頃まで約600年間続いたとされる中国大陸最古の王朝「殷王朝」で使用していました。
この殷王朝では、作物の豊凶や天候、さらには政治的な決定や戦争の計画などを行う際に卜占(ぼくせん)と呼ばれる占いを用いて、その占い結果によってさまざまな事柄を占いで決めていました。
亀の甲羅や牛の肩甲骨などに占いたい内容を刻み、それを火であぶって表面にできる亀裂によって吉兆や行動指針を決めるもので、そこで用いられていたのが、卜字とも呼ばれる甲骨文字なのです。
そして、紀元前11世紀になると殷王朝は周の武王によって滅亡され、殷王朝とともに甲骨文字は姿を消しましたが、殷末には、金文(きんぶん)と呼ばれる文字が青銅器に鋳込まれ、周王朝においても金文が使われて発展していきました。周王朝では儀式のために多くの青銅器が作られ、その詳細がかなりの長文を金文で鋳込まれています。
なお、金文の文字構造は甲骨文字とよく似ていて漢字の原形とされるものの、その字体は異なり、鋭角的な甲骨文に対して、金文は丸みを帯びているのが特徴です。その理由としては、その製作工程が異なることが大きく関係しており、甲骨文字は固い甲羅や骨に刀で刻んでいたため細く鋭角的なですが、金文は筆のようなもので書かれた文字を特殊技術で器の鋳型に写し取るため、太く丸みを帯びた字体になったのでしょう。
そして、春秋戦国時代になると、各地に有力な強国がいくつかでき、文字もその各地で独自の発展を遂げました。その後、紀元前221年になると秦の始皇帝が天下を統一し、各地で発展した文字の使用を禁止し、篆書(てんしょ)と呼ばれる秦の国で使われていた文字をベースとして生まれた文字を全国で使用するように強制しました。文字が統一された理由は、文書による行政を重視していたことであり、文字がバラバラであると行政手続に差障りが生じてしまうからです。
なお、この篆書は線の太さが一定、横画は水平、縦画は垂直、字形は縦長、曲線的などといった特徴がありましたが、文書の作成に時間がかかってしまうこととなり、実用性を追求し、篆書を簡略化した隷書(れいしょ)が生まれました。
秦の王朝はわずか15年で滅亡し、その後、漢の時代となり、隷書の早書きとして前漢時代には草書(そうしょ)、後漢時代には行書(ぎょうしょ)ができ、そして4世紀頃なると、誰でも読み違えない、字画を崩さず整然とした書体として、楷書(かいしょ)に変化して誕生し、数世紀かけて現在の漢字の最も基本的な字形となったのです。
現在も使われている伝統的な書体
お気づきの方も多いかと思いますが、古代中国で作られた篆書や隷書、草書などの伝統的な書体は、フォントとしてデジタル化されており、主にタイトルデザインやロゴデザインの中で現在も使われているのです。
篆書体
フォント: HOT-白舟篆書教漢
隷書体
フォント: HOT-白舟隷書R教漢
草書体
フォント: HOT-白舟草書教漢
行書体
フォント: HOT-白舟行書教漢
楷書体
フォント: HOT-白舟楷書教漢
篆書体や隷書体にあまり馴染みがないと思った人もいるかもしれませんが、篆書体は日本のパスポートの表紙の文字や実印や銀行印などに、隷書体はお札の「日本銀行券」などに用いられており、意外に現代の日本での生活の中で見受けられるものです。
また、デザイン性に優れている事から、篆書体はオリジナルTシャツのデザインにも良く使われます。
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デザイン作成・入稿について
漢字の特徴とその構成
私たち日本人も使っている漢字は、世界各地のさまざまな古代文字の中でも最も歴史のある文字といわれています。というのも、メソポタミア文明の楔形文字や古代エジプトのヒエログリフなどは時代の変化とともに衰退してしまい、その解読には何世紀に及んで研究がなされていたものです。
一方、漢字は今から約3300年前の中国で生まれたものであり、私たちが普段使っている「山」や「川」といった漢字は当時の甲骨文字に由来していることから、紀元前の文字を現在の21世紀において使われ続けていることが証明されています。
なお、漢字の主な特徴は表意文字であることです。
これは、文字そのものが意味を表し、特定の物や概念を表すことができることであり、たとえば、「木」という漢字は、木を表すだけでなく、木に関連する様々な概念や言葉と結びつけて使用することができます。
また、漢字の構成はとても豊富で、漢字の形を作る方法として「象形文字・指事文字・会意文字・形声文字」の4種類、4通りのどれかをほかの用途に使用する方法の「転注・仮借」2種類に分類され、これを合わせて六書(りくしょ)といいます。
象形文字(しょうけいもじ)
象形文字とは、物の形を象(かたど)って作られた文字です。
「山」は高い山々が連なっている様子、「川」は水の流れる様子、「人」は人が立っている様子などであり、月、日、目、口、刀、馬などが象形文字です。
指事文字(しじもじ)
指事文字とは、形として表現しにくい物や動作を点や線を使って表した文字です。
「上」という漢字は線の上に点があることで「上」を表しており、この外には数字の一、二、三、四、中、天、音、本などが指事文字です。
会意文字(かいいもじ)
会意文字は、二つ以上の象形文字や指事文字を組み合わせて、もとの漢字とは別の意味を持たせた文字です。「休」は人が木のそばで身体を休めることから「人」と「木」が組み合わされ、「林」は木がたくさんある場所を示すことから「木」が二つ組合されました。森、明、男、鳴、見などが会意文字です。
形声文字(けいせいもじ)
形声文字は、象形文字や指事文字の「意味を表す部分(意符・いふ)」と「発音を表す部分(音符・おんぷ)」を組み合わせた文字のことで、部首からは意味を、旁(つくり)からは音を取って組み合わせます。「清」はサンズイ+青で、サンズイは水を表し、旁である青は音を表し、日本語の音読みでは「セイ」となり「清」を表します。地、湖、酒、校、花、晴、菓、抱などが形声文字です。
転注文字(てんちゅうもじ)
転注文字は、上の4種類の漢字を組み合わせて、本来の意味から転じて他の意味なった文字です。「楽」はもともと楽器という象形文字でしたが、音楽を聴くことは「楽しい」ことから「楽しい」といった意味に転用されました。長、悪などが転注文字です。
仮借文字(かしゃくもじ)
仮借文字は、ことばの意味とは関係なく、音が似ている漢字を転用した文字です。
珈琲(コーヒー)、巴里(パリ)、基督(キリスト)、亜細亜(アジア)など、漢字自体に意味はなく、音が似ていることで使われています。
このように、漢字とは象形文字、指事文字、会意文字、形声文字などによって構成されています。この多様性と複雑さが、漢字の豊かな表現力を支えており、文化的な深みを与えているのではないでしょうか。漢字の理解は、日本語や中国語の文化を理解する上で重要であり、その学びは非常に興味深いものです。
漢字文化圏 ~漢字はどのように広がったのか~
中国で生まれた漢字は、中国国内にとどまらず、日本をはじめ、朝鮮半島やベトナムなどの東アジアに広がりました。漢字を主要な表記体系として使用される地域のことを漢字文化圏と呼び、漢字文化圏では漢字を通じてそれぞれ独自の文化を発展させてきたとされています。
ここでは、そんな漢字文化圏がどのように広がりを見せたのかご紹介します。
朝鮮半島への伝来
朝鮮半島に漢字が伝わったのは、中国の秦朝や漢朝の時代である紀元前2~3世紀の頃です。特に漢朝が朝鮮半島北部に地方行政組織(楽浪郡)を設置したことが、本格的な導入のはじまりとなりました。その後、漢字は政治、外交、教育に広く使用され、高句麗は中国文化を積極的に取り入れ、新羅も漢字を用いて歴史書や法律を編成し、百済は日本に漢字や仏教を伝えたとされています。
日本への伝来
日本では1世紀頃(弥生時代後期)の金印が出土していますが、実際に漢字が伝来したのは、4世紀の末頃、朝鮮半島・百済の国。応神天皇の招請により、王仁博士と呼ばれる人が、漢字の教本として使用される「千字文」や「論語」をもたらしましたとされています。その後、7世紀の初めには日本から唐へ使節団を送り、漢字を通じて中国の文化を吸収していきました。
ベトナムへの伝来
紀元前111年から938年の間(約1000年)、中国から属国のように支配されていたベトナムでは、話す言葉はベトナム語でしたが、漢字は公式文書として用いられ、文学や教育においても漢字が一般的でした。
この他にも、中国語を公用語としている香港やマカオ、台湾やシンガポールなどでは使われていますが、韓国やベトナムでは漢字の使用は事実上消滅しています。
日本と中国の漢字の相違点
なお、日本においては4世紀の末頃に朝鮮半島から漢字が伝来しましたが、独自の発展を遂げたことにより、日本と中国の漢字では、文字の形、意味と使い方、発音など多くの相違点があります。
文字の形(字体)
最も明確な違いの一つは、文字の形(字体)です。中国では、1950年代以降に簡略化した字体体系の「簡体字(かんたいじ)」が公式に採用され、漢字の画数を減らすために簡略化されました。これに対して、日本では主に正字(繁体字)を基にした常用漢字が使用されています。日本の漢字は、例えば「学」(學の簡略形)や「国」(國の簡略形)のように、独自の簡略化を行っていますが、基本的には繁体字に近い形を保っています。
漢字の意味と使い方
日本語と中国語では、同じ漢字でも意味や用法が異なる場合があります。例えば、「手紙」という言葉は日本語では「letter」を意味しますが、中国語では「トイレットペーパー」を意味します。また、日本語では「勉強」という言葉は「study」を意味しますが、中国語では「努力する」という意味です。このように、同じ漢字でも異なる意味を持つことがあります。
音読みと訓読み
日本語の漢字には、音読みと訓読みという二つの読み方があります。音読みは中国から伝わった発音を基にした読み方であり、訓読みは日本独自の意味に基づいた読み方です。例えば、「山」という漢字は、音読みでは「さん」、訓読みでは「やま」と読みます。中国語には、このような二重の読み方は存在せず、基本的に一つの漢字に一つの発音が対応しています。
全世界の漢字は全部でいくつあるのか?
3000年以上の歴史を持つ漢字は、現在、全世界でいくつの存在するのでしょうか。
なお、現在の実際に使われている漢字は以下の通りです。
中国の常用漢字は約3500字
日本の常用漢字は2136字
また、世界中の文字を単一の文字コード体系で扱えるように作られた、符号化文字集合のUNICODEには、バージョン13.0の時点でなんと9万字以上の漢字が収められているのです。
しかし、世界の漢字の総数を調べることはもはや不可能といえるでしょう。
というのも、中国ではいくつもの文献が残されており、中国の現存する最古の字書「説文解字 (せつもんかいじ)」には小篆文字9353字と異体字1163字、宋代に作られた漢字を韻によって分類した書物「集韻(しゅういん)」には53525字を収めているとされていますが、>漢字を使っている国は中国だけではなく、日本や韓国、台湾などがあります。
それぞれの国では独自に発展し、さらに旧字体や異体字などを含めると、
その総数は10万字、12万字ともいわれるものの、正確な総数を特定することは難しいといえるでしょう。
3000年以上の歴史を持つ漢字。私たち日本人が普段使っている漢字は、そのこのごく一部に過ぎないことに驚きを隠せませんが、古い漢字や漢字の成り立ちに興味を持ってみてはいかがでしょうか。古い漢字を学ぶことは古代中国や日本の歴史、文化に対する理解が深まるものです。